英国の gender recognition bill の試訳  針間克己

性別承認法案


目次

第一部 性別承認証明書の申し立て

第一条 申し立て
第二条 証拠
第三条 証明書
第四条 補足

第二部 性別承認証明書発行の結果

第五条 全体
第六条 登録
第七条 結婚
第八条 親としての立場
第九条 差別
第十条 資産継承
第十一条 爵位など
第十二条 財産受託者と動産代理人
第十三条 見込んだ相続ではない時の命令

第三部 補足

第十四条 情報開示の禁止
第十五条 命令と規則
第十六条 金
第十七条 解釈
第十八条 開始
第十九条 開始後6ヶ月以内の申し立て
第二十条 名称


性別変更に関する条項を作成するための法案

本法は、本議会に於いて、上・下両院の助言と同意より且つそれを以て、女王陛下により且つその権威によって次の通り制定される。

第一部 性別承認証明書の申し立て
第一条 申し立て
(1)18歳以上の男女いずれかの性別のものは以下挙げる要件に基づき性別承認証明書の申し立てが可能である。
(a)反対の性別で生活している。
(b)英国以外の国や地域の法律で性別変更が承認されている。

(2)小条項(1)により申し立てを行う人物に関して、この法律では「獲得した性別」とは以下を意味する。
(a)小条項(1)の(a)で申し立てがなされる場合は、生活している性別。
(b)小条項(1)の(b)で申し立てがなされる場合は、変更したと承認された性別。

(3)条項(1)に基づく申し立ては、性別承認委員会で裁決される。

(4)小条項(1)の(a)で申し立てがなされる場合は、性別承認委員会は以下の条件を申し立て人が満たす場合は申し立てを認可しないといけない。
(a)性別違和症を有す
(b)申し立てがなされた日に、獲得した性別で2年は生活している。
(c)死亡するまで獲得した性別での生活を続ける意思がある。
(d)性別承認委員会が第二条に基づき求める要件を満たす。
以上の条件を満たさない場合は却下しないといけない。

(5)条項(1)の(b)で申し立てがなされる場合は、性別承認委員会は以下の条件を申し立て人が満たす場合は申し立てを認可しないといけない。
(a)申立て人が性別変更を承認された国や地域は、認可された国や地域でないといけない。
(b)性別承認委員会が条項2に基づき求める要件を満たす。
以上の条件を満たさない場合は却下しないといけない。

(6)この法律では「認可された国や地域」とは、国務大臣作成の命令に規定された国や地域を意味する。

(7)予定1(性別承認委員会に関する条項を定める)は効力を有する。

第二条 証拠
(1)条項1(1)(a)での申し立てには以下のものどちらかが必要である。
(a)性別違和症の分野での経験のある登録医に作成された報告書1通と、他の登録医(性別違和症の専門医でなくてもよい)に作成された報告書1通。
または、
(b)性別違和症の分野での経験のある認定心理士に作成された報告書1通と、他の登録医(性別違和症の専門医でなくてもよい)に作成された報告書1通。

(2)条項(1)は、この条項に要求されている、性別違和症の分野での経験のある登録医ないしは認定心理士により作成された報告書に、申立て人の性別違和症の診断の詳細が記されていない限りは、要件を満たさない。

(3)申し立て人が性別特徴を変更させることを目的とした治療を過去や現在行っている場合や、申立て人へのそのような治療が予定されている場合には、少なくとも条項(1)に要求された報告書の1通に、その詳細が記されていない限りは、要件を満たさない。

(4)条項1(1)(a)での申し立ては、申立て人による以下の法定上の申告もなされないといけない。
(a)申立て人は条項1(4)(b)と(c)の条件を満たし
(b)申し立て人の婚姻の有無について。

(5)条項1(1)(b)での申し立てには以下のものが必要である。
(a)申立て人が婚姻していない場合は、申立て人による、婚姻していないという法定上の申告。
(b)申立て人が婚姻している場合には、その国又は地域に基づき保持されている婚姻記録を含む登録のコピー、あるいは婚姻日や二人の性別に関する証拠。
その他の場合には、認可された国や地域の法律で性別変更したと承認されている証拠。

(6)条項1(1)に基づく申し立ては以下のものが必要である。
(a) 申立て人の出生証明書。
(b)申立て人の人生のすべての時期における知られている名前の変更に関する証拠。

(7)「出生証明書」は以下を意味する。
(a)申立て人の出生登録、または
(b)申立て人の出生と性別に関する証拠となる登録のコピー。

(8)この法律で条項1(1)に基づく申立て人の「出生登録」とは以下を意味する。 申立て人の出生記録を含む(養子登録や性転換症者登録といったものを含む)
(a)証明書としてのコピーは登記長官により保持されている登録。または
(b)登記長官に保持されている登録。

(9)条項1(1)に基づくすべての申立て人は
(a)性別承認委員会が申し立てにおいて必要だと判断したその他の証拠を提出しなければならず
(b)申し立て人が望むその他の証拠を提出することが可能である。
     
第三条 証明書
(1)性別承認委員会が条項1(1)に基づく申し立てを承認した場合には、申立て人に性別承認証明書を発行しなければならない。
(2)小条項(3)が適用される場合を除いては、性別承認委員会は、(留保条件なく)申し立ては認可されたことを明言しなければならない。この証明書は、完全な性別承認証明書と呼ばれる。

(3)以下の場合
(a)条項1(1)(a)の要件を満たしているものが婚姻している時
(b)条項1(1)(b)の要件を満たしているものが婚姻している時で、その婚姻が性別変更承認された後のものではない時
これらの場合、性別承認証明書は、申し立ては認可されたが、申立て人の婚姻により、完全性別承認証明書は発行されないことを明言しないといけない。このような証明書は暫定性別承認書と呼ばれる。

(4)配偶者が申立て人の獲得した性別ではなく、婚姻が認可された国や地域の法律に基づき、獲得した性別であると承認されてからなされた婚姻は、性別承認後の婚姻である。

(5)暫定性別承認証明書が申立て人に発行された場合、申立て人は完全性別承認証明書の申し立てを、以下のことが生じてから6ヶ月以内のいつでも行うことが出来る。
(a)婚姻関係が無効になったか解消された、または
(b)配偶者が死亡した。(申立て人が再婚しない限り)

(6)小条項(5)に基づく申し立ては、婚姻関係の無効ないしは解消、あるいは配偶者の死亡を示す証拠を提出しないといけない。

(7)小条項(5)に基づく申し立ては、性別承認委員会で裁決される。

(8)性別承認委員会は
(a)申立て人が婚姻していない場合は、申し立てを認可しないといけない。
(b)そうでない場合は却下しないといけない。

(9)性別承認委員会が申し立てを認可した場合は、性別承認委員会は完全性別承認証明書を申立て人に発行しないといけない。

(10)性別承認証明書が申立て人に発行され、申立て人がその証明書に誤りがあると考えた場合は、申立て人は訂正された性別承認証明書を求める申し立てをすることが出来る。

(11)小条項(10)に基づく申し立ては、性別承認委員会で裁決される。

(12)性別承認委員会は
(a)性別承認証明書に誤りがあるときは、申し立てを認可しなければならない。
(b)そうでない場合は却下しないといけない。

(13)性別承認委員会が申し立てを認可した場合は、性別承認委員会は訂正した完全性別承認証明書を申立て人に発行しないといけない。

(14)国務大臣は性別承認証明書の内容と形式の明細を定めることが出来る。

第四条 補足
(1)条項1(1)または3(5)または(10)に基づく申し立ては国務大臣が明細を定める内容と形式に則らなければいけない。

(2)申し立てが支払いを要しないと国務大臣が定めた条件でなされない限り、申立て人は国務大臣に、国務大臣が明細を定める金額の、返済されない料金を支払わないといけない。異なる条件によって、異なる金額の料金に定められることはありうる。

(3)申立て人は申し立てが却下された場合には、高等裁判所に上告することが出来る。上告は、申し立ての要望があれば、非公開になされないといけない。

(4) 上告が却下された場合には、申し立て人は却下後6ヶ月以内には、更なる申し立ては出来ない。

(5)申し立てが認可されたが、国務長官がその認可は虚偽に基づき裁決されたと判断した場合には、国務長官はその事例を高等裁判所にゆだねることが出来る。高等裁判所では、
(a)申し立てを認可した決定を取り消すか、承認しないといけない。
(b)取り消す場合には、申し立ての認可により発行された性別承認証明書を破棄しなければならず、その行いの結果や関連性をかんがみて適切と思われるいかなる命令も下すことが出来る。

第二部性別承認証明書発行の結果
第五条 全体
(1)完全性別承認証明書が発行された場合、その人の性別は、すべての目的において、獲得した性別のものとなる。

(2)条項(1)は、証明書発行以前の過去の出来事や現在継続中の事柄には影響を与えない。しかし実際には、(証明書発行以後のものと同様に)証明書発行以前の法律、法律文書、その他の文書の解釈に影響を与える。

第六条 登録
予定2(性別が獲得した性別に人物の登録に関する条項)は効力を有する。

第七条 婚姻
予定3(性別が獲得した性別に人物に関する婚姻法の修正)は効力を有する。

第八条 親としての立場
(1)この法律のもと、性別が獲得した性別になったという事実は、ある人物がある子どもの父親、母親であるという身分には影響を与えない。

(2)しかし、性別が男性になった人物が、「1990年ヒトの受精と発生法」の第二七条の(3)小条項(ある男性と女性への治療サービスによって、子どもが出来た場合、その男性を父親とみなす)に従って、父親として扱われる場合は、婚姻期間に男性ではなかった場合を除いては、その小条項に従いその子どもの父親とみなす。

第九条 差別
(1)1975年性別禁止法は以下のように修正する。

(2)条項7A(性別再指定:真の職業資格の例外)の最後に以下の文を挿入する。
「小条項(1)は2003年性別承認法に基づき獲得した性別になったものへの差別に関しては適用されない」

(3)条項7B(性別の再指定に関する例外の補足)の小条項(3)は以下のものに代える。
 「小条項(2)は2003年性別承認法に基づき獲得した性別になったものへの差別に関しては適用されない」

(4)条項9(契約労働者への差別)の小条項(3C)のあとに以下の文を挿入。
「小条項(3B)と(3C)は2003年性別承認法に基づき獲得した性別になったものへの差別に関しては適用されない」

第十条 資産継承
この法律に基づきある人物の性別が獲得した性別へと変更した事実は、資産の処分や継承がなされる遺言や法的書類において、変化させる意志がないことが本人から表明されていれば、資産の処分や継承には、影響を与えない。

第十一条 爵位
この法律に基づきある人物の性別が獲得した性別へと変更した事実は
(a)爵位、位階、名誉の称号の継承に影響を与えない。
(b) 遺言や法定書類によって、爵位や位階や名誉の称号に(法の許す限り)伴い譲渡する(明示の有無に関わらず)とされた資産の譲渡には、遺言や法定書類に変化させるべきだという意思が表明されない限りは、影響を与えない。

第十二条 財産受託者と動産代理人
(1)財産信託や不動産管理に関する法律に基づいて、完全性別承認証明書がある人物に発行されたか破棄されたかを、何らかの財産譲渡や分配の前に調査することは、財産受託者と動産代理人には義務付けられていない。
(2)財産の譲渡ないし分配の以前に、ある人物の完全性別承認証明書の発行の有無に関する通知を受領してない限りは、ある人物の完全性別承認証明書が発行されたか破棄されたかを考慮せずに財産の譲渡ないし分配をしても、財産受託者と動産代理人は誰に対しても責任は問われない。
(3)この条項は、取得者以外の財産を受領した他の人物に、ある人物が財産や財産相当のものを受け渡す権利を阻害するものではない。

第十三条 見込んだ相続ではない時の命令
(1)この条項は、遺言以外の法定書類における資産の処分や譲渡が見込まれた額とは異なり、その理由がある人物がこの法律に基づき獲得した性別へと変更した事実による場合に適用される。

(2)資産の処分や譲渡に関して不当な扱いを受けたことを理由に高等裁判所に申し立てすることが出来る。

(3)高等裁判所は、申し立てがしかるべき根拠がある場合には、適切と思える命令を出すことで、財産の処分や譲渡で、申し立て人が利益を得るようにすることが出来る。

(4)命令は、特に以下の条項を作ることが出来る。
(a)一括での申立て人への支払い
(b)申立て人への資産の譲渡
(c)申し立て人の利益になるような資産の清算
(c) 資産の獲得と、申立て人への資産の譲渡または清算。

(5)命令は、実効力があるように、または、申立て人と関係者の間で公明に実行されるのを確かなものとするために、追加的ないし補足的条項を含むことが出来る。命令は、特に財産受託者にも効力を有す。

第三部 補足
第十四条 情報開示の禁止
(1)公的立場にあり保護された情報を得たものが、他者にその情報を開示することは違法である。

(2)「保護された情報」の意味は条項1(1)に基づき申し立てを行った人物に関する情報であり、
(a)条項3(5)または(10)に基づき行われた申し立てに関すること、または
(b)条項1(1)に基づく申し立てが認可された場合は、完全性別承認証明書が発行される前の性別に関する事柄。

(3)以下のような状況で情報を入手した場合は、公的立場により保護された情報を得たことになる。
(a)国家公務員、警官やほかの公的職務の仕事に関連してや、地方や公的団体やボランティア組織の機能と関連して。 (b)情報の関わる人物の雇用者ないしは将来的な雇用者として、または逆にそのような人物に雇用されるものとして。 (c)仕事の実行や、人材派遣の仕事に関連して。

(4)しかし、以下の条項に基づくある人物の情報開示は違法ではない。
(a)その情報により人物は特定できない。
(b)情報開示を当人が同意している。
(c)その情報は小条項により保護された情報である。
(d)その情報開示は公的任務による。
(e)その情報開示は法廷の命令に基づく。
(f)その情報開示は法廷での開始ないし手続きを目的にしている。
(g)情報開示は小条項(5)に基づく命令に則している。
(h)情報開示はこの条項以外の法令に従ってなされている。

(5)国務長官は命令によって、保護された情報の開示が違法とならないための条件を定めた条項を制定できる。

(6)小条項(5)で制定された命令は、以下のことを許可する条項となり得る。
(a)特定の記述を特定の人物に行う情報開示。
(b)特定の目的に行う情報開示。
(c)特定の情報記述のための情報開示。
(d)特定の記述を特定の人物が行う情報開示。

(7)この条項の違反者は、標準段階の5段階以下の罰金の即決判決に服さないといけない。

第十五条 命令と規則
(1)この法律に基づき指示を出せる国務長官のすべての権限と、この法律に基づき規則を出せる登記長官のすべての権限は、法令文書により行使可能である。

(2)条項1ないし4に基づく国務長官の発する指示をあらわす法令文書は、いずれかの国会による決議の履行で無効とされれば、それに従う。

第十六条 金
(1)国会より以下の金額が支払われる。
(a)この法律に関連して、国務長官ないし登記長官が必要とする支出、および
(b)この法律に関連して、他の法律での支出額の増加。

(2)この法律に基づき受領した納付金は統合基金に納入される。

第十七条 解釈
この法律において、
「獲得した性別」とは、条項1(2)で示した意味である。
「認可した国ないし地域」とは、条項1(6)で示した意味である。
「出生登録」とは条項2(8)で示した意味である。
「認定心理士」とは、さしあたっては英国心理協会認定心理士登録に記載されているものという意味である。
「性別承認証明書」「完全性別承認証明書」「暫定性別承認証明書」とは条項3で示した意味である。
「性別承認委員会」とは予定1で示した意味である。
「登録長官」とは、イングランドとウェールズの登録長官を意味する。

第十八条 開始
第15,16,17,18,20条以外は、この法律は国務長官が指令を発する日まで効力を有しない。

第十九条 開始後6ヶ月以内の申し立て
(1)この条項は、この法律が施行されてから6ヶ月以内に、条項1(1)(a)に基づきなされるすべての申し立て例に対して適用される。

(2)第一条(申し立て)は小条項(4)の(a)(b)が以下の文章に置き換わったものとして効力を有する。
「(a)性別違和症を有す、または性別特徴を変更させる目的の外科的治療を行っている。
(b)申し立てがなされた日に、獲得した性別で6年は生活している。」

(3)第二条(証拠)で、性別違和症を有することに基づく申し立ては、小条項(1)(2)(3)が以下の文章に置き換わったものとして遂行される。
「(1)第一条(1)(a)での申し立てには以下のものどちらかが必要である。
(a)性別違和症の分野での経験のある登録医による報告書1通。または、
(b)性別違和症の分野での経験のある認定心理士による報告書1通。
(2)条項(1)は、この条項に要求されている、性別違和症の分野での経験のある登録医ないしは認定心理士により作成された報告書に、申立て人の性別違和症の診断の詳細が記されていない限りは、条件を満たさない。
(3)申し立て人が性別特徴を変更させることを目的とした治療を過去や現在行っている場合や、申立て人へのそのような治療が予定されている場合には、少なくとも条項(1)に要求された報告書の1通に、その詳細が記されていない限りは、条件を満たさない。」

(4)第二条(証拠)で、性別特徴を変更させる目的の外科的治療を行っていることに基づく申し立ては、小条項(1)(2)(3)が以下の文章に置き換わったものとして効力を有する。
「(1)第一条(1)(a)での申し立てには以下のものどちらかが必要である。
(a)性別違和症の分野での経験のある登録医による報告書1通。または、
(b)性別違和症の分野での経験のある認定心理士による報告書1通。
(2)条項(1)は、この小条項に要求されている報告書に、申し立て人が性別特徴を変更させることを目的に行った外科的治療と今後予定されている他の外科的治療の詳細が記されていない限りは、条件を満たさない。」

(5)予定1(委員会の構成員)の段落4(2)は段落(b)(委員会は医学専門家を構成員に加えるという要件)を削除したものとして効力を有する。

第二十条 名称
この法律は、2003年性別承認法と呼ぶことが出来る。